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そういうこともあり、事前に青木淳さんの原っぱと遊園地を始めて読んだのだった。 始めて読んだといっても昔の雑誌などでいくつか目にしたセンテンスもあったし、「原っぱと遊園地」というフレーズで言わんとしていることもなんとなく理解していた(つもりであった)。 ただ、一冊の本の中にここまで執拗に「原っぱと遊園地」にまつわることが論じられると、このフレーズには相当に深い根が存在しているように思われた(、というかたぶんそうだろう)。それは青木さん本人の経験や思考にとどまらず、磯崎さん、さらにはミース、コルビュジェに至るまでの主に近代以降の建築が成してきた経験と思考までもを、このフレーズの中に絡めとろうとしている。それらを養分にして青木さんは建築を培養するのである。 思ったことは、僕が普段建築について考えていることが、青木さんのそれと、多くの部分で重なるということである。これは、メディアを通して情報として入ってくる青木さんの言説が自然に僕の中に無意識のうちに浸透していたのか、それともただ単純に各自考えていたことが偶然(あるいは必然に)一致したのだろうか。…ということの違いはまあ、本質的にはどうでもいいのだろうけど。たぶんどっちもである。ただ、前者のメディアにおける青木さんと僕との関係には、まだ逆が成り立たない、というのは悔しいところではあるが、まあそれは僕の頑張り次第の問題である。 この本を読むにあたってよかったことは、僕が青木さんに対して少々懐疑的であるということだった。つまり青木さんの言説が僕の中に浸透していたにしろ、それは無意識的であって、意識の上では青木さんに懐疑的であり得ているという点に、僕にとっての救いがある。 情報とは兎角そういうものである、と最近僕は考える。情報はもはや人間の中に無意識的に浸透していくものなのだ。それを受け入れた上で、まだ情報に対して体系的に批判し得るか。そこにかかっている。それによって建設的な自己批判が可能になる。 そんな中、僕が青木さんの言説の中で一番感心したのは、決定ルールの話である。例えばこの本の中に土木構築物賛美がなされているが、それでは建築は土木のように作るわけにはいかないのか、ということになる。構造や経済の合理性だけに身を委ねるような「決定ルール」には何が欠如しているのか。建築と土木との違いは何か。土木構築物は常にその形態に目的を備えているのである。つまりその物理的な存在自体に物語性を有しているということだ。建築は普遍的な物語性がない。いや、今の時代に限って言うと、ない。この時代の特徴は物語を普遍化しないということである。では「決定ルール」を敷衍するための物語はどこに見出せばいいのか。青木さんはそれを宙ぶらりんにしてしまえと言い放ったのです。目から鱗です。無根拠が根拠を与える。なんと奥ゆかしく魅力的な逆説。こういうのを鏡花水月法というのだろうか。いや、ちょっと違うのかな。 なににしろ、ある種の諦観。成熟期のロジック。こんなこと言うとたぶん青木さんはブチ切れでしょうが(もしかしたら喜ぶかも?)、ゴシックのクレイジー・ヴォールトの様な代物を生み出すメンタリティに少し近いのかもしれないと思った。倫理的な部分は明らかに違うでしょうが。 僕はその部分において青木さんを評価し、同時に批判するのだろうなと思います。あなたは媒体としては完全だけれど、故にそこからどこへも行けないのではないかと。あなたの論理では建築家が、「いい空間」を生成するための機械以上の何者でもなくなるのではないかと。それでもいいのかもしれないが、僕はもっと政治的なところにまで踏み込む必要がある気がしている。 「体系的に批判する必要」などと最初に書いたが、全く体系的にならなくて悲しい。これはただの愚痴と法螺にすぎないです。具体的な展望さえも探り中なのです。ごめんなさい。 消化不良なので、また書きたいと思います。 ちなみに、青木さんの考察を読んでいて、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」をなんとなく思い浮かべたのでした。 author:松本剛志
by matsumo5402
| 2009-09-03 12:51
| 晴れ
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